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アトリエ・エルスールからエルスール財団へ 詩とダンスのために いま、新たなページが始まる

第10回エルスール財団新人賞

今年のエルスール財団新人賞受賞者が下記のように決定いたしました。

 
 
<現代詩部門>
青野暦(あおのこよみ)

【贈賞理由】
青野暦は、詩集『冬の森番』において、日常のトリビアルな事象にまなざしを注ぎながら、不意にポエジーへの跳躍を果たすあたり、いかにも今の時代の人らしい。それでいて、どこかなつかしさを感じさせるところもある。幅が広いのだ。それは彼の扱うジャンルにも及んでいて、この春には文學界新人賞も受賞している。詩と小説と、このさきどんなリアル二刀流的活躍を見せてくれるのか、贈賞にはその期待も込めたい。(野村喜和夫)

感性の煌めきと巧みな描写が誰の目にも明らかな青野暦の魅力であることはまず間違い無いとしても、やや背景に引いている抑制的な主題の書き方や、そこから逆算して汲み取れる余力の存在が、青野の今後の跳躍を既に占っている。誰だったかの言葉を借りれば搭載しているエンジンが大きいともいえるし、表出されているものの後ろに広大なアーカイブがあるともいえるのだろうが、『冬の森番』という傑出した第一詩集と、まだ海水中にある氷山のような可能性を併せて、青野暦を今年の新人に選出する。(尾久守侑)
<コンテンポラリー・
ダンス部門>
吉開菜央(よしがいなお)

【選考理由】
 吉開菜央は「映画作家・振付家・ダンサー」である。自らも踊り、振付もする。米津玄師の大ヒット曲『Lemon』のPVで、一人踊っている女性が吉開だ。映像ではカンヌ国際映画祭に短編『Grand Bouquet』が正式招待され、日本の映画館で『吉開菜央特集:Dancing Films』が組まれるなど、いずれも高く評価されている。ダンサーとして、かつ映像作家として身体表現に新しい地平を拓いていくアーティストだといえる。
 映像作品『ほったまるびより』では、女性(柴田聡子)が住む一軒家に、小暮香帆など4人のダンサーが座敷童のごとく悪戯をしながら走り回る。微笑ましくもゾッとする生々しさを描いた。
 また自身が謎の存在『赤いやつ』として登場する『Shari』は、知床・斜里町の住民と自然との交流を描き出す初の長編映画である。
 近年では選者が参加しているインドとの共同ダンスプロジェクトに、吉開は映像作家として加わった。吉開はダンサーの鈴木竜に密着し、質問を繰り返し、普段は心の奥底に封印しているようなことまでも引き出し、描き出して見せた。
 吉開の映像は、よくある「動きを切り取ったダンス映像」ではない。ダンスを通して身体の深奥にある核心をいきなり掴んで抉り出す精緻さと容赦のなさがある。同時にダンサーとして身体への愛情と愛着も共存しているのだ。吉開の作品は「映像化することで初めて顕れる人体のリアリティ」を証明し続けている。
 領域を横断するアーティストは、どちらの世界からも正当な評価を得られないことが多い。しかしこのエルスール財団新人賞は、そういう人をこそ率先して評価し、応援できるものだ。吉開は、まさにこの賞にふさわしいアーティストなのである。

選考委員:乗越たかおNORIKOSHI Takao
<フラメンコ部門>
出水宏輝(でみずこうき)
(Farolito)

【贈賞理由】
今年の受賞者、出水宏輝(Farolito)さんは、8年ほど前に初めて拝見し、この3~4年ずっと注目して観続けてきたバイラオールだ。
彼は、当初フラメンコギターを弾いていた。しかし、踊りの伴奏をしながらすぐに振付を目で見て覚えてしまうという才能を持っていたため、「踊ってみたら?」という周囲の勧めでバイレを始めたという。10歳の頃だ。
2009年、弱冠14歳でグルーポ・ぺパの全国ツアーライブにてバイラオールとしてプロデビュー。2014年には、官民協働海外留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」の1期生として一年間スペイン留学し、ファルキートに師事した。帰国後はソロリサイタルを成功させるとともに、2018年に第1回『全日本フラメンココンクール』にて努力賞、2019年に日本フラメンコ協会主催の第28回『新人公演』で奨励賞を受賞するなど、着実に実績を積みあげてきた。
それでは、出水さんの踊りの魅力はどこにあるのだろうか? 卓越したリズム感や高度なテクニックがあるのはもちろんのことだが、フラメンコと真摯に向かいあう中で自然に身についたアイレ、さらには温かい人柄をにじませる踊りでありながらもダイレクトに観客の心をわしづかみにするフラメンコ魂を持ち合わせていることではないだろうか? 
ある時は軽やかに野山を駆け巡る妖精、ある時は女たちを惑わす伊達男、またある時はセビージャの街角にいる粋なオッサン……など、さまざまな「顔」を見せながらも、その心の向かうところはすでに決まっていると見た。
期待を持って見守りたい。

選考委員:野村眞里子
   

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