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アトリエ・エルスールからエルスール財団へ 詩とダンスのために いま、新たなページが始まる

第8回エルスール財団新人賞

今年のエルスール財団新人賞受賞者が下記のように決定いたしました。

 
 
<現代詩部門>
藤井晴美(ふじいはるみ)

<贈賞理由>
藤井晴美の詩は、容易には触れられない狂暴な何かを携えている。その何かを名指すことは難しい。まるで手のうちが分からない切断と結合の書法、現代詩というジャンル自体に対する暴力性、といった状況証拠をいくら積み重ねても、その何かは彼方へと逃げ去っていく。いっぽうで、藤井晴美の詩は、いつも新しい。詩がなまものであり、いずれは腐臭を帯びるという意味でなら、あるいは「新しい」という語が一度きりの時代と切り結ぶという意味でなら、「いつも」という形容は語義矛盾となり得る。だが、そのような身体的・論理形式的矛盾など藤井晴美の書きつけてきた膨大な詩篇群をまえに、無効となるだろう。新人、という存在を「真に新しい詩を書き続けてきた人」と捉えるなら、藤井晴美こそその人である。(藤本哲明)

選考委員:野村喜和夫、藤本哲明(第7回エルスール財団新人賞受賞者)
<コンテンポラリー・
ダンス部門>
下島礼紗(ケダゴロ主宰・振付家・ダンサー) 
Shimojima Reisa (Dance Company KEDAGORO)


 日本のダンスには政治的な作品が皆無といえるほど、無い。
 これは世界的に見ても異質なこととして受け止められている。
 そんな中、下島礼紗率いるダンスカンパニー「ケダゴロ」の代表作『sky』は、オウム真理教や連合赤軍のリンチ殺人事件など、日本の歴史のダークサイドにまで切り込んだ、近来稀に見る傑作である。「大きな氷の塊を舞台上で持ち続ける」という無意味な行為も、「頑張って! みんな我慢してるんだから!」と声を掛けあい、連帯する安心感と同調圧力で互いを縛り合う。そしてその後、共産主義革命歌「インターナショナルの歌」や麻原彰晃本人が歌う「極限修行者音頭」などを流し、ダンスが踊られる。そのダンスが格好良く、楽しければ楽しいほど、その裏には「ダンスという芸術がもたらす一体感」がファシズムや宗教に利用されてきた歴史がべったりと貼り付き、ダンスが本質的に持っている危険な一面が浮き彫りになってくるのである。
 出演ダンサー達はダンスの技術はもちろん、毎回極限まで心身を追い詰められながら、見事にそのテンションを具現化している。
 ソロ代表作『オムツをはいたサル』は紙オムツを履いた格好で踊る一見コミカルな作品だが、下着とは「人間とサルを分ける文明の象徴」であり、文明の延長にはやはり宗教や戦争があることが示唆される。
 これらの作品は海外でも高い評価を得ており、多くのフェスティバルから招聘されている。見た目以上に骨太の作り手であり、日本のダンスに不足している視座を兼ね備えた、次代を担う才能として、この賞を贈りたい。

選考委員:乗越たかお(作家・ヤサぐれ舞踊評論家) Norikoshi Takao
<フラメンコ部門>
内城紗良(うちじょうさら)

贈賞理由…今年のフラメンコ部門の新人賞受賞者は、過去7回の受賞者と大きく異なる点がある。それは、彼女がまだ未成年で、現在南風野香スペイン舞踊団に所属されていることだ。これまでは、すでに独立してソロ活動をしている方を選ばせていただくことが多かったが、内城紗良さんは、舞踊団員でありながらもこの賞の選考基準をすでにみたしていらした。すなわち、高度なテクニックを有し、フラメンコへの十分な理解があり、アーティストとして新しい世界を作る可能性をひめた新人であること。つまり、所属先の了解さえいただければ、彼女の受賞を妨げる何の理由もなかった。
私が彼女のソロを初めて拝見したのは、今年の『第2回全日本フラメンココンクール』だった。予選の曲は「ソレア・ポル・ブレリア」、そして本選の曲は「セラーナ」だ。舞台に登場された時から、彼女は衣装の選び方からして他の方と違う、と感じた。流行に流されず、彼女のオリジナリティーを感じさせながらも、曲との相性に配慮した見事な選択に驚いた。そして、踊り始めてからはさらに驚いた。新人離れしたテクニックと表現力があり、フレッシュ、かついさぎよい踊りで会場の空気をたちまち支配したのだ。このコンクールで内城さんが「小松原庸子特別賞」を受賞されたのも、当然の結果だと思われた。
内城さんは5歳から舞台に立たれ、その後さまざまな作品に出演されている。彼女の所属する南風野香スペイン舞踊団は、スペイン舞踊やフラメンコの枠を拡げるような意欲的作品を発表されていて、私が注目している舞踊団の一つなのだが、評判となった2017年の『パ・ド・トロワ{白鳥の湖}』、及び先月開催された南風野香舞台人生40周年記念公演『キヨヒメ2020パラレルワールド』では、内城さんは主演をつとめている。残念ながら私はこの2公演を見逃してしまったが、こうした作品との出会いも内城さんには大きな刺激となっているに違いない。
今後、内城さんの未来はどのように展開していくのだろうか。さまざまな出会いや学びの中で、彼女の才能が大きく花開いていくことを期待しつつ、エルスール財団新人賞をお贈りしたいと思う。みなさまには、どうか温かく見守っていただければ幸いである。

選考委員:野村眞里子
なお、授賞式は後日、東京都内で開催いたします。

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