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アトリエ・エルスールからエルスール財団へ 詩とダンスのために いま、新たなページが始まる

第9回エルスール財団新人賞

今年のエルスール財団新人賞受賞者が下記のように決定いたしました。

 
 
<現代詩部門>
尾久守侑(おぎゅうかみゆ)

【贈賞理由】
またひとり、夢魔と狂気の詩人が誕生した。より正確にいえば、夢魔と狂気を飼い慣らそうとする不敵な詩人が。聞けば、尾久氏は精神科医だという。私はとっさに、フランス19世紀末の小説家モーパッサンの逸話を思い出した。彼は、おぞましいエッフェル塔を見ないで済むようにと、エッフェル塔内部のレストランに通いつづけたのだった。たとえば、つい最近刊行された尾久氏の詩集『悪意Q47』の表題作は、「いつかQのない意味のなかをきみは駆け抜ける」と締めくくられる。言い換えれば、「いまはQそのものである非意味のなかにきみはとどまる」ということだ。そこでは、何かしら意味の固定へと向かう動き──抒情にせよ物語にせよ──を無化してやまない詩の快活な「悪意」が息づいているのである。顕彰しないでいられようか。(野村喜和夫)

【贈賞理由】
感染力。
買ったばかりの尾久守侑の詩集『悪意Q47』から死番虫が一匹出てきた。よせよ。悪意の虫だな。殺そうとしたが逃げられた。詩集を汚さず、自分の手も汚さずにやろうとしたのが間違いのもとだったのかもしれない。もうどこへ行ったかわからない。最近体中が痒い。感染したらしい。これでは他の本にも感染するな。
という風にデコーディングしていくような前代未聞の新しさが尾久守侑の詩にはある。
現代詩は、詩人それぞれの美学に従ってエンコードしてきたが、行き着くところまで行き、尾久守侑あたりでUターンしてデコードするようになった、と思われる。(藤井晴美)
<コンテンポラリー・
ダンス部門>
ハラサオリ

【選出理由】
ハラサオリは日本とベルリンを拠点に世界的に活躍している。
コンテンポラリー・ダンスは、知性と身体の戦いの歴史だが、ハラサオリはその両方を併せ持ち、ダンスの地平に新しい視線をもたらしている。
また自ら新しい活動の環境を創り出すプロデューサー的な感覚も優れている。
『Da Dad Dada (ダダッドダダ)』は、ミュージカルダンサーでもあり自分たちを棄てていった実の父親と、その不在をテーマにした作品。超プライベートなテーマだが、絶妙な距離感を保ちながら展開していく手腕が光った。分析と構築、さらにしっかりと身体性に落とし込むあたり、今の日本にはなかなかないスタイルである。
慶応大学に移築されて残されている旧ノグチルームでのサイトスペシフィックな作品『no room』では、国に保障されないアイデンティティの困難さを描いた。
今後はさらに領域を横断する活躍が期待される。

選考委員:乗越たかお(作家・ヤサぐれ舞踊評論家) Norikoshi Takao
<フラメンコ部門>
伊藤笑苗(いとうえな)

<贈賞理由>
コロナ禍に翻弄され続けた今年、フラメンコの世界でもコンクール、新人公演、発表会、公演、イベント、ライブが次々と中止や延期となった。「そんな中で、本当にちゃんと今年の新人が選べるの?」というご質問もいただいた。もしエルスール財団新人賞フラメンコ部門が、コンクールや新人公演の場での踊りだけを評価して贈る賞なら、「今年は中止」という選択肢もあっただろう。だが、この賞は選考委員自身が数年間のスパンでさまざまな場所に出向き選考するスタイルをとっているため、いささかの影響を受けることもなかった。そればかりか今年の受賞者は、コロナを吹き飛ばすかのようなパワーと、ストレスまみれになった心を癒してくれるような爽やかさを合わせ持ったフラメンコダンサー。まさに、「今年の新人」と呼ぶにふさわしいダンサーなのだ。
そんな今年の受賞者とは伊藤笑苗さん。3年ほど前から、私が密かに注目していたフラメンコダンサーである。
彼女は、4歳の時から斎藤克己フラメンコアカデミーで学ばれ、現在も同舞踊団に所属されている。10歳の時舞踊団の25周年公演でデビューされ、2014年以降ほぼ毎年夏に渡西。多くの師に教えを受け、本場のフラメンコに接してこられた。昨春、マルワ財団主催の「第10回CAFフラメンコ・コンクール」で海外留学賞を受賞され、長期渡西。つまり、今年の彼女の活動は一時帰国中の日本のタブラオでのライブをのぞき、すべてスペインでのものだ。ある時は大学ペーニャで、またある時は大自然の中で踊られ、現地のスペイン人をあっと言わせてきた。今年の2~3月に私がスペイン滞在していた時には、とあるフェスティバル関係者から、彼女の出演とそのサポートを依頼されたほど、現地での評価は高かった。(注:新型コロナウィルスの影響で、彼女の出演話は残念ながら現在ペンディングになっている。)
伊藤さんには、すでにあらゆるものがそなわっているようだ。並外れた舞踊テクニック、フラメンコへの深い愛と身についたアイレ、そして他の追随を許さない発想の新しさ!
彼女のあどけない表情の下には、「言い知れぬ神秘性」が潜んでいる。それに気づいた時、あなたはきっとこのダンサーの虜になるに違いない。

選考委員:野村眞里子
なお、授賞式は後日、東京都内で開催いたします。

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