第13回エルスール財団新人賞のコンテンポラリーダンス部門とフラメンコ部門の受賞者が下記のとおり決定いたしました。
なお、現代詩部門のみ11月中旬以降に発表予定です。
第13回エルスール財団新人賞
コンテンポラリーダンス部門受賞者
宮悠介(みやゆうすけ)
(Photo by Toshiyuki Maegawa)
<贈賞理由>
宮は強くしなやかな身体と表現力でダンサーとしても魅力的だが、丁寧に彫琢した作品作りでも注目されている。さらには独特な響きを持った声の表現もほかに類を見ない。横浜ダンスコレクションにおいて、ソロ作品で受賞した宮は、受賞者公演では振付作品を依頼されたが結局ソロ『架空生物の鳴き真似 (Alien Blues)』を発表した。これは母が離婚の事実を伏せたまま幼い宮と共に地方に移り住んだ切ないエピソードが語られる。キツい方言と標準語が綯い交ぜとなり発語する身体と踊る身体の拮抗が異様な迫力を見せた。強い身体をまとった繊細な魂、明るさとトラウマ、差し伸べるか引っ込めるかを逡巡し続ける指先の震えから、不意に観客の胸の奥に触れるようなダンスである。今年は初の自主公演、初の振り付けを行った。さらには演者の性別を変えたり人数を変えたりと、プラスアルファの挑戦に満ちていた。いまだ底の見えぬ作り手として、最も注目しているアーティストである。
(選考委員:乗越たかお)
<プロフィール>
宮悠介
1998年生まれ。ダンサー。振付家。アート企画者。
出身地新潟県の高校部活動からダンスを始め、筑波大学、大学院で舞踊学を修める。在学中は全日本高校・大学ダンスフェスティバル(神戸)で5度の文部科学大臣賞を受賞。ダンサーとして、これまで国内10都市、国外2都市(韓国、ルーマニア)にて、日本を代表する振付家の作品に出演。振付家としては、自己の実体験を基に自作自演で踊る作品を創作。国内外で招聘を受け発表を行っている。創作に加え、地元新潟のダンス環境整備にも取り組むべく、アーツカウンシル新潟の助成を受け、「HomeShip〜新潟出身振付家によるダンス公演&キャリアトーク含むワークショップ及び調査〜」や「岩室AIRプロジェクト」を企画、運営。ヨコハマダンスコレクション2022コンペII 最優秀新人賞受賞。SAI DANCE FESTIVAL 2023 ソロ部門First Prize受賞。穂の国とよはし芸術劇場PLATダンスレジデンス2023レジデンスアーティスト。独立行政法人国際交流基金(JF)&横浜国際舞台芸術ミーティング(YPAM)共催「2024年度舞台芸術専門家派遣事業(シンガポール)」採択アーティスト。湘北短期大学非常勤講師。
第13回エルスール財団新人賞
フラメンコ部門受賞者
松田知也(まつだともや)
(Photo by Kana Kondo)
<贈賞理由>
私が、松田知也さんの踊りを拝見するようになって16年が経った。最初は、私が日本フラメンコ協会主催の「新人公演」の選考委員をつとめさせていただくようになった初年の2008年だった。その時、松田さんは最高賞である奨励賞を受賞された。また2013年には、河上鈴子スペイン舞踊新人賞も受賞されている。こうしたことから、松田さんはもう「新人」の枠には入らないという見方もできるかもしれない。でも、コロナ禍を経て松田さんは大きく変わられた。まったく新しいフェーズに入ったと言っても過言ではないだろう。とりわけ、評判の『棘の多い薔薇たち』シリーズにvol.6再演(2021年9月、於:アルハムブラ)から参加し、宣言通り「大輪の薔薇」を咲かせ、フラメンコ界から驚きの声が上がったのは記憶に新しい。
コロナ禍で、多くの踊り手が自分と向き合う時間が増えた。松田さんもそうした中で、自分の踊りの方向性を模索し、一つの答えを見出したように思われる。すなわち、手具(パリージョ、アバニコ、マントン)とバタ・デ・コーラ(裾を長くひきずるフラメンコ衣装)をきわめること。男性舞踊手のバタ・デ・コーラはスペインでは近年珍しくなくなった。でも、日本ではまだ使う人がそれほど多いわけではない。それに、一つ間違えば「女装」というレッテルを貼られかねない。だが、松田さんのバタ・デ・コーラ姿は、本当に美しい。長身の松田さんの操るバタ・デ・コーラは、迫力と繊細さの両方が備わっていて、彼の表現の幅を大きく広げたと言える。さらに、こうした新たな方向性に加え、フラメンコの大きな魅力である「ペジスコ」(スペイン語で「つねり」を意味する。フラメンコでは見ている者の心をきゅっとつかむ瞬間を指す)を感じさせる踊り手に成長されたことは、素晴らしい。「ペジスコ」のある踊り手は、残念ながら日本ではきわめて少ないのだ。
私はずっと見続けてきた一人の踊り手のこうした変化に感動すら覚えた。そして、今後日本のフラメンコ界を背負っていくことになるであろう「シン知也」に、ぜひともエルスール財団新人賞を贈賞したいと思う。
(選考委員:野村眞里子)
<プロフィール>
松田知也
山形県出身。幼少期にはダンス全般、10歳でフラメンコを始める。 98年より本格的に小島章司氏のもとでフラメンコを始め、2001年「黒い音」以降、小島章司フラメンコ舞踊団の全定期公演に出演。08年日本フラメンコ協会新人公演バイレ・ソロ部門奨励賞受賞。11年フェスティバル・デ・ヘレス招聘公演「ラ・セレスティーナ~3人のパブロ~」に舞踊団員として出演 。12年ビエナル・デ・セビーリャ招聘公演「ラ・セレスティーナ~3人のパブロ~」に舞踊団員として出演し高評を受ける(ABC紙マルタ・カラスコ記者)。
13年河上鈴子スペイン舞踊新人賞受賞。17年小澤征爾音楽塾オペラ「カルメン」東京・京都・名古屋公演に出演。 17年19年のCAFフラメンコ・コンクールにおいてファイナリストとなる。21年駐日スペイン大使館主催公演「ロルカ藝術大全 文学と音楽と舞踊を巡る」に出演。22年スタジオジュリナ主催「FLAMENCO Carmen」にてエスカミーリョ役を好演。これまでに、クリスティーナ・オヨス、ハビエル・ラトーレ、ドミンゴ・オルテガ、エルフンコ他数多くのスペイン人舞踊家から指導を受ける。現在はタブラオ、劇場公演に精力的に出演しながら小島章司フラメンコ舞踊団主要メンバーとして活動している。
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