第13回エルスール財団新人賞
現代詩部門受賞者
大島静流(おおしましずる)
<贈賞理由>
この青年はどこから来たのだろう。谷川俊太郎の『二十億光年の孤独』に寄せた三好達治の帯文を真似て、唐突にも問うてみたくなった。現代詩の正統を通って、はるか過去から来たように見えながら、実は未来から来たのかもしれない。既知がそのまま未知となるような、事後がそのまま始まりとなるような、そういう世界変換のヴィジョンと技術が、たしかにこの青年の書法にはあると感じられるからだ。彼の仄暗い「蔦の城」はそのように世界を組み替えるためのアトリエである。詩のこれからを担いうるだろう。
(選考委員:野村喜和夫)
大島静流の作品は暗い。
硬派で、決して声高に主張することはないが、一行一行に迷いがなく、緻密に構造を計算された建築のように閉ざされた耽美な世界が組み上げられる。『蔦の城』という詩集のタイトルはこれ以上なく端的に彼の作品世界を表していると言える。
思潮社による若手詩人の叢書、lux poeticaの創刊もあり今年は同年代の詩人の作品が多く、知人の名前がたびたび挙がる難しい選考だった。フェアネスを重視したが、結果として昨年このエルスール財団新人賞をいただいた『とある日 詩と歩むためのアンソロジー』の執筆者でもあり、わたしを詩の世界へ導いた最も身近な詩人である大島静流にバトンを渡すことになってしまった。
最終候補として上がった際、賞を贈る相手としてあまりにも近すぎるのではないかと懸念した。しかし、今年の詩人たちの活動を客観的に見渡した上で、近現代の詩をよく読み先人たちの作品を吸収しつつも彼自身の作品世界を揺るぎなく立ち上げるその姿は、これまで書かれてきた詩がどんなものであったかをよく知らないまま書き始めてデビューしていく詩人が多い現在のシーンにおいて稀少であるとわたし自身を顧みつつ改めて感じた。
真摯に詩の歴史を学び、詩の世界に身を投じる彼をきちんとその歴史に残していくためには、いまここで賞を渡さなくてはならないと考え、賞を贈る。
(選考委員:「とある日」編集部 川上雨季)
<プロフィール>
大島静流(おおしま・しずる)
一九九七年生。第一詩集『飛石の上』(七月堂)で第26回中原中也賞最終候補。第二詩集『蔦の城』(思潮社)で第29回中原中也賞候補。
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