第14回エルスール財団新人賞のコンテンポラリーダンス部門とフラメンコ部門及び第2回エルスール財団特別賞の受賞者が下記のとおり決定いたしました。
なお、現代詩部門のみ11月中旬頃に発表予定です。
第14回エルスール財団新人賞
コンテンポラリーダンス部門受賞者
浅川奏瑛 Kanae Asakawa

<贈賞理由>
浅川奏瑛はヨコハマダンスコレクションで最優秀新人賞を受賞するなど高く評価されている。独自のテーマ設定力と、観客を作品世界に引き込む力、そして内奥から湧き上がってくるムーブメントに注目している。小物や舞台美術を含めて空間全体を構成する発想も巧みで、最終的にそれらを身体に接続するセンスは次世代のダンスを生み出す可能性を感じさせる。
『O ku』では、柔軟で強い身体性に、舞台奥にある照明と手前の紙というミニマルな要素で、緊張感ある空間を構築した。紙飛行機や蝉の声の演出は祖父の戦争体験に着想を得たそうだが、こうした個人的なテーマを普遍的なイメージへと昇華させる力量を早くも発揮している。『帰り道をなくして、この足』では微細な音や照明の演出、自身の体内リズムで踊り続ける姿が鮮烈だった。『TOKYO 21XX』では、工事用コーンを被ったユーモラスな外見から始まるが、街の様々な声が遠くに聞こえてくるうちに、文明が廃絶したあとの町並みにも見えてくる。
現在は四季折々をテーマに微細な色や光や音を紡ぐ「四季シリーズ」を継続中である。美しい舞台の奥に、死や破壊の存在が仄暗く揺らめく独特な世界。今後の活躍を大いに期待している。
選考委員:乗越たかお
<プロフィール>
浅川奏瑛Kanae Asakawa
ダンサー、振付家。
新体操の経験を経て創作活動をはじめる。
自主企画や子ども向けWS、即興セッション、演劇作品や野外フェスへの参加等多岐に渡り活動。
尚美学園大学卒業。
主な作品に『O ku』(2021)、『帰り道をなくして、この足』(2022)、『TOKYO 21XX』(2023)、『煙は宇宙に昇って』(2025)など、破壊と再生の境界にある人間の姿を描いた作品を発表している。
第14回エルスール財団新人賞
【フラメンコ部門】該当者なし
<選考委員より>
フラメンコ部門は、第11回目に続き2度目の該当者なしになりました。残念です。
今年は、第13回CAFフラメンココンクールが12月7日二次予選、2026年1月31日本選のためエルスール財団新人賞の時期とあわず、また全日本フラメンココンクール2025は中止となりました。一方、日本フラメンコ協会は第34回フラメンコ・ルネサンス21「新人公演」を開催したほか、「新進フラメンコ芸術家等人材育成プロジェクト」を展開しています。またこのプロジェクトとは別に、過去のコンクール優勝者や弊財団新人賞受賞者による多くの自主公演があり、大いに盛り上がりました。さらに、各教室の発表会、タブラオなどでのライブや配信も多数行われ、たくさんの素晴らしい才能に出会いました。
でも、エルスール財団新人賞フラメンコ部門の選考は、1回の公演やコンクールの踊りの出来栄えだけで選ばせていただくものではありません。たとえば、昨年の受賞者松田知也さんは、16年間拝見させていただいた後の贈賞となり、驚かれた方も多かったに違いありません。
毎回選考させていただくにあたり、3つのポイントがあります。1つ目:テクニック、2つ目:フラメンコに対する愛とその方のフラメンコ性、3つ目:一人のアーティストとして日本のフラメンコの状況を変えるような可能性を持っているか、ということです。今年は、キッズやジュニアの活躍も目立ちましたが、その方たちに「期待」だけで贈賞することはひかえ、もう少し長い時間をかけて見続けてゆきたいという結論に至りました。
選考委員:野村眞里子
第2回エルスール財団特別賞
【Premio merite especial(特別功労賞)】 エンリケ坂井

<贈賞理由>
これまでエルスール財団では、若手世代を対象に新人賞及び特別賞を贈賞してまいりましたが、今回初めてフラメンコ界のベテラン世代の方への贈賞です。
エンリケ坂井氏は、1948年に岐阜県で生まれ、6歳から本格的にフラメンコギターを始めました。1972年にスペインへ渡り、イタリアでの長期間の仕事の後、マドリードのタブラオ「クエバス・デ・ネメシオ」に長期出演し、多くの著名な歌手や踊り手と共演しました。
1977 年、ラ・マンチャでギターリサイタルをひらいた後帰国し、東京を中心に演奏活動をしながら、パルマとカンテの会を主宰。カンテの普及にも力を入れ『ど素人のためのパルマ教室』の講師の他、『フラメンコを歌おう』Vol.1~2 を㈱パセオより出版し、フラメンコ界に多大な功績を残しています。
私は直接エンリケ氏に師事したことはありませんが、『フラメンコを歌おう』は 2 巻とも購入しました。他の多くのフラメンコのアルティスタ/アフィシオナード同様、私がこの本から学んだことは計り知れません。
エンリケ氏の功績はまだまだあります。1992 年~1996 年にかけて毎年「フラメンコの深淵」と名付けたコンサートを催し、ペリーコ・デル・ルナール II 世、ランカピーノ、チョコラーテなど一流のアーティストを招き共演したのです。そして、CD「フラメンコの深い炎」シリーズでは、1 作目がランカピーノ、2 作目がロサリオ・ロペス、3 作目がダビ・パロマールとペリーコ・デル・ルナール II 世をゲストに迎え、ギターソロに、カンテ伴奏に、その魅力をあますところなく伝えています。
さらに、「日本フラメンコ史上に残る快挙」と評されているのが、世界有数のフラメンコSP レコードコレクターであるエンリケ氏の膨大なコレクションを CD 復刻した「グラン・クロニカ・デル・カンテ」です。これは、今ではなかなか聴くことのできない貴重な音源を、本来の音になるべく近づけるためあえて蓄音機で再生したうえでノイズを除去するという細やかな配慮をしつつ復刻するというプロジェクトで、現在 36 作まで発売されています。
エルスール財団が開催中の『ロルカフェスティバル 2025―2027』では、1922 年にマヌエル・デ・ファリャとフェデリコ・ガルシア・ロルカが中心となって開催した『カンテ・ホンド・コンクール』のこともとりあげていますが、この全貌を知ることができるのもエンリケ氏が CD「グラン・クロニカ・デル・カンテ」の 28 作目として「グラナダのカンテ·ホンドのコンクール特集」を復刻販売しているからなのです。(40 ページに及ぶブックレットには、故濱田滋郎氏、エンリケ坂井氏による解説のほか、歌詞の対訳、アーティスト解説などが収められています。)
その功績があまりにも大きいため、現役のギタリストでありカンタオールであるエンリケ氏のことが最後になってしまいましたが、本年 10 月にガルロチで開催された喜寿を記念した公演『TOQUE, CANTE 77.7』では、一部のギターソロにも二部のカンテソロにも感涙を禁じえませんでした。そこにはフラメンコを愛し、フラメンコのためなら死んでもいいと思いながら信じる道を進み、たゆまぬ研鑽を積んで来られたエンリケ氏のあまりにも深い世界があったからです。
そのアルテにおいても、生き様においても、人柄においてもフラメンコ界の「至宝」であるエンリケ坂井氏に<Premio merite especial(特別功労賞)>をお贈りできることは、エルスール財団にとってこの上ない喜びです。
選考委員:野村眞里子
<プロフィール>
エンリケ坂井 Enrique Sakai(ギタリスト/カンタオール)
1948 年 3 月 10 日、岐阜県各務原市に生まれる。16 歳から本格的にフラメンコギターを始め、1972 年スペインへ渡る。イタリアでの長期公演の後、マドリードのタブラオ「クエバス・デ・ネメシオ」に長期出演。エンリケ・オロスコ、パコ・トロンホ、カルデーラらの歌手、また舞踊家のトゥペーのギタリストとして活動。‘77 年ラ・マンチャでギターリサイタルをひらいた後帰国。東京を中心に演奏活動をしながら、毎年スペインに渡り研鑽をつんでいる。’88 年セビリア市から招かれてビエナル・フラメンコ音楽祭に出演。カンテの普及にも力を入れ『ど素人のためのパルマ教室』の講師の他、『フラメンコを歌おう』Vol.1~2 を㈱パセオより出版。’92 年~‘96 年にかけて毎年「フラメンコの深淵」と名付けたコンサートを催し、ペリーコ・デル・ルナール、ランカピーノ、チョコラーテなど一流のアーティストを招き共演した。CD『フラメンコの深い炎』、『グラン・クロニカ・デル・カンテ』vol.1~36(以下続刊)。2025 年1月 Círculo Flamenco de Madrid から招かれ、ヘスス・メンデスと共演。10 月喜寿を記念した公演『TOQUE, CANTE 77.7』開催
コメント