第12回エルスール財団新人賞
現代詩部門受賞者
「とある日」編集部
<贈賞理由>
今年は詩集でめざましい印象を与えた詩人が見当たらず、選考は難航した。そうした中で、『とある日──詩と歩むためのアンソロジー』(責任編集川上雨季、編集組版長濱よし野)が浮かび上がってきた。大学で教える詩人が編集し学生の作品を載せる媒体として「インカレポエトリ」があるが、この『とある日』は学生自身が編集し、加えて相互批評の場までそこに組み入れたアンソロジーである。作品のレベルも高い。総じて、インカレポエトリに拠る若い詩人たちの活動の集大成、あるいは到達点が示されたという印象が強い。現代詩の世界全体にとっても非常に斬新かつユニークな「出来事」であり、顕彰に値する。
(選考委員:野村喜和夫)
いくつかの詩集を候補にあげたが、それぞれに良さと評価できない点があった。例えば、語りが面白く共感性が得られる詩集であっても、言葉そのものに対する疑いがないのは致命的ではないか、という議論があった。言葉を素直に信じられるなら、おそらく詩人にはなっていない。やはり、詩で書くからには、詩でしか書けないもの、詩である必然性を感じられる詩集を選びたい。今年の受賞は、めずらしく詩人ではなく本(編集部)に与えられることとなった。『とある日』というまだ若い詩人たちのアンソロジーだ。詩とは“なんだかわからないもの”という前提から、作品のあとに相互評とそれに対する作者の返答が掲載されている。その企画力が評価された。欲を言えば、執筆者が慶應と早稲田のインカレポエトリー出身者のみで “内輪ネタ”になりかねないので、もっと多様な詩人に執筆してもらえばより世界が広がったと思う。川内倫子さんの写真に、蛍光イエローの遊び紙を使用した佐野裕哉さんの装丁など、一冊の本としても美しい。
(選考委員:小野絵里香)
<プロフィール>
「とある日」編集部
詩人・川上雨季(責任編集)と大学院生/編集者・長濵よし野による「とある日」編集部。
川嶋みらい文化芸術財団2022年度芸術活動助成をうけ、インカレポエトリを出発点とした若手詩人のさらなる自立を目的に『とある日 詩と歩むためのアンソロジー』を制作した。
詩に馴染みのない人たちが詩と歩みはじめる入り口をコンセプトに、詩人たちがほかの作品を読んだ相互評を収録している。
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