第14回エルスール財団新人賞現代詩部門受賞者決定

第14回エルスール財団新人賞
現代詩部門受賞者
西プネウマ

<贈賞理由>西プネウマはどこからやってきたのか、どこへ行こうとしているのか。皆目見当のつかない新人である。いきなり今年、詩集『ぜんいんでしゅくふくせよ』において、圧倒的な存在感を示した。そこには、得体の知れない何かが沸騰している。巨大な諧謔装置。語り=騙りの途方もない散文精神。しかも、それを捩る情動の抒情的暴力。その他いろいろと特徴を挙げることができそうだが(前年度受賞者大島静流ともどこかで共振する先鋭的な反時代性を加えてもいいかもしれない)、それらを超えて、やはり、得体の知れない何かというほかない何かが沸騰している。「ほうきして/にげきったなら、/ぜんいんで/しゅくふくせよ。」
(選考委員:野村喜和夫)

身構えて開いた分厚い詩集の最初の一篇が、言葉少なでどこか儚い行分け詩であったこと。その一篇しか読まないうちに、そこにすべてが書かれているような気がしてしまったこと。思い返せば、その時にもう結論は決まっていたのかもしれません。
人を食ったようなとめどない言葉の奔流、その中に確信犯的に埋め込まれた馬鹿馬鹿しい笑いはしかし、西さんの一つの通過点に過ぎないのではないかとも思わせられます。何もかもかなぐり捨ててもう戻れないような饒舌の中に、一瞬の光が乱反射するときが一度や二度ではなくあり、その正体を知るために読み返さなくてはならない、と引き戻される膂力も感じました。そしてその力の発生源は、西さんがたくさんの言葉を生んでいる場所とは違うところなのではないかと思います。何かずれていったものが目の前を去っていく悲しみと、その悲しみを悲しみとして眺めたくないといういたいけな姿。そうした正直な傷跡も西さんの詩にはしっかりと刻まれていて、読み手を惹きつけ立ち止まらせるのは、その叫びにならない痛みの方なのではないかと思います。
西さんの心奥に尽きない泉があるのか、それとも、重い一冊の詩集にその魂は一度吸い取られてしまったのか、私たちにはもちろん分かりませんし、おそらく本人にも分からないと思います。しかし西さんが抱えているものは、ただ言葉をたくさん吐き出すだけの機構ではありえず、魂と分かち難く結びついた炉に違いありません。
芸術であるなら貴くあってほしい。詩であるなら美しくあってほしい。そういう願いをひらりとかわして、いたずらな笑みで去りながら、それでも、いつかは底知れぬ美しい詩を書いてくれるのであろう、と期待される何かが、西さんの詩からは感じられました。
この度は、受賞おめでとうございます。
(選考委員:大島静流)

<プロフィール>
西プネウマ
詩人。2000年生まれ。熊本県出身。第一詩集『ぜんいんでしゅくふくせよ』を2025年8月に左右社より刊行。詩人のコレクティブ「ニジュウサンジュウ」に参加。

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