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アトリエ・エルスールからエルスール財団へ 詩とダンスのために いま、新たなページが始まる

第11回エルスール財団新人賞

今年のエルスール財団新人賞受賞者が下記のように決定いたしました。

 
 
<現代詩部門>
小野絵里華

<贈賞理由>
この度刊行された待望の第一詩集『エリカについて』を読むと、詩的な語りの魔術というべきだろうか、それ自体がすでに魅力だが、小野絵里華の登場の意味をさらにつぎのように捕捉することができる。彼女は、伊藤比呂美的なところから出発しながらも、1980年代の女性性とは違ういまの時代の女性性、「宇宙を孕む」壮大なアイロニーをも含む脱女性性的な女性性を体現している、と。今後も大きく飛躍するだろう。(野村喜和夫)

小野絵里華さんの第一詩集『エリカについて』(左右社)は、収録の詩の持つ力と構成の巧みさにおいて、ここ一年ほどで出版されたほかの詩集と比べて、ずば抜けている。私は、『エリカについて』を読んでいて、何度も笑い、いいなあと思い、しんみりし、こころの奥深くにしまっていて、じぶんのものとわからなくなっていた記憶と向き合った。機会があったらこの詩集をすすめたい知人や友人の顔が、具体的に思い浮かんだ。小野さんの詩には、語りの圧倒的な魅力がある。太宰治の語り、カズオ・イシグロの語り、ダヴィド・フェンキノスの語り……、先行例として、小説作品に溶けているいくつもの詩のかがやきが思い浮かぶが、その鮮やかな語り芸に導かれてたどりつく場所は、ある「空白」についての試論である。幽霊、と言えるほどのわかりやすさは持たずに、私たちが想像世界において等しく与えられ、苦しめられてもいる、無限の、未生の生に対して、「鉄壁な実存」を名乗りなおす詩集になっている。私事にかかわることで恐縮だが、もう長いこと、眠れない夜には、尾形亀之助の詩集を読む習慣にある。これからはきっと、この詩集を開くだろう。(青野暦)

選考委員:野村喜和夫、青野暦
<コンテンポラリー・
ダンス部門>
やまみちやえ

<授賞理由>
 日本のコンテンポラリー・ダンスは、古典文化とはほぼ隔絶した状態で発展してきた。むろん様々な挑戦はされてきたのだが、ほとんどが木に竹を接ぐような失敗に終わってきた。古典の魅力を現代の身体に接続させるセンスが必要なのだ。
 やまみちやえは自ら太棹三味線を演奏するが、東京藝術大学在学中から「義太夫とコンテンポラリーダンスによる」というサブタイトルの公演を企画構成演出してきた。『鷺娘』など古典曲のみならず、『大蛇』『橋姫』のように様々な伝承伝説から自由に紡ぎ出し、さらには『江丹愚馬』(ENIGMA。演出・振付:橋本ロマンス 詞章・作曲:やまみちやえ)のような架空の怪物譚をも創り出す。詞章・作曲をやまみち自身が手がけることで、「ダンスと一体感のある邦楽」を可能にしているのだ。多くのコンテンポラリーダンサー達との協働も高く評価されている。やまみちは、かつて誰も為し得なかったダンスの新しい領域を拓きつつあるのだ。
 やまみち自身が踊るわけではない。だがコンテンポラリー・ダンスにおいて振り付けとは動きを作ることではなく「動きによって新しい価値観を創造すること」である
 その意味で、やまみちは「古典の魅力を現代の身体にインストールしている」のであり、立派に振り付けと呼んで差し支えないと、舞踊評論家の名にかけて断言しておく。
 本賞は、どちらからも正当に評価されにくい「領域横断的な活動をする才能」へ積極的に授賞してきた。今回も、じつに相応しい受賞者といえるだろう。

選考委員:乗越たかお(作家・ヤサぐれ舞踊評論家) Norikoshi Takao
<フラメンコ部門>
該当者なし

<選考委員より>
フラメンコ部門は、第11回目にして初の該当者なしになりました。残念です。
今年は、第11回CAFフラメンココンクール、第3回全日本フラメンココンクール、第31回フラメンコ・ルネサンス21「新人公演」などがあり、文化庁の「ARTS for the future! 2」の支援を受けた多くの公演があり、またタブラオなどでのライブも増え、配信もたくさん行われました。そんな中、たくさんの素晴らしい才能に出会いました。でも、エルスール財団新人賞フラメンコ部門の選考は、1回の公演やコンクールの踊りの出来栄えだけで選ばせていただくものではありません。毎回選考させていただくにあたり、3つのポイントがあります。1つ目:テクニック、2つ目:フラメンコに対する愛とその方のフラメンコ性、3つ目:一人のアーティストとして日本のフラメンコの状況を変えるような可能性を持っているか、ということです。今年最終選考まで残られた3名の方は、1つ目と2つ目の点では素晴らしかったのですが、3つ目の点で「弱い」と感じました。第9回の受賞者伊藤笑苗さんや第10回の受賞者出水宏輝(Farolito)さんと同じようなパワーがあればよかったのですが――。そして、もう少し長い時間をかけて見続けてゆきたい方たちだという結論に至りました。

選考委員:野村眞里子
 
 

第1回エルスール財団特別賞Premio Alma Pura por la Fundación del Sur

今年のエルスール財団特別賞受賞者が下記のように決定いたしま

した。

小谷野宏司
Hiroshi Koyano

<贈賞理由>
小谷野さんの踊りはもうだいぶ前から拝見しているが、その圧倒的な個性は他の追随を許さないほどだ。プーロなフラメンコを愛し、頑固に、こだわりを持って生きている人だが、人懐っこさと温かい心を持ち、多くの仲間やアフィシオナードに愛されている。そして、たとえ自分と相容れないタイプのフラメンコを仕事で要求されても、「勉強」として真面目に取り組もうとする姿勢も持ち合わせている。
当初、私はバイラオールとしての小谷野さんしか知らなかったが、2019年にルイス・ペーニャのフィエスタが目黒のラテン文化サロン内「カフェ・イ・リブロス」で開かれた時、フェステーロとして「タンゴ」を歌って踊った小谷野さんを見て驚いた。セビージャの古きよき時代のフエルガの雰囲気をかもし出していたからだ。後からご本人に聞いた話では、「ブレリアは前にもやったことがあったけれど、あの時突然ルイスに『タンゴをやれ』と言われて初めてやった」のだとか。つまり、私は小谷野さんのフェステーロとしての初タンゴを目撃したというわけだ。
あれから3年、小谷野さんはバイラオールの忙しい仕事の中ですら着実に研鑽を積み、フェステーロの道も歩もうとしている。その歌と踊りは、本場セビージャでもすでに知られ、愛されているというから驚きだ。
バイラオールにしてフェステーロ、小谷野宏司さんのますますの成長と活躍を願って、第1回エルスール財団特別賞「プレミオ・アルマ・プーラ」をお贈りしたいと思う。

選考委員:野村眞里子

    
   

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